こんにちは、ネコのシッポです。
8月に入り、3月期企業の第1四半期決算が一気に出そろってきました。今回チェックしたのは、5月の本決算のときに「来期予想は未定です」と保留にしていた東ソー(4042)です。
その待っていた通期予想が、今回ようやく開示されました。同時に出てきた1Qの数字が、営業利益93.9%増・経常利益143.6%増・純利益198.0%増という、パッと見では文句のつけようがない内容です。
ただ、化学メーカーの決算は「増益の理由」を分解しないと実力が見えません。今回はまさにその典型例でした。決算発表当日の株価が一時5.8%下落したのも、おそらく市場が同じところを見ていたからだと思います。順番に整理していきます。
三行要約
- 1Qは営業利益312億円(前年同期比+93.9%)と大幅増益。ただし増益151億円のうち121億円は「在庫受払差」によるもので、実需の数量寄与は+24億円にとどまります。
- 保留されていた通期予想が開示。売上高1兆1,700億円・営業利益1,050億円・純利益590億円と過去最高圏の計画ですが、下期はナフサ価格の下落を前提に、在庫受払差の逆回転を織り込んだ保守的な内容です。
- 配当は年間100円を据え置き(※2026年8月4日終値2,654円時点の利回り3.77%)。配当性向は前期75.5%から52.2%へ正常化見込みで、過去17年間の減配実績はゼロです。
今期の見どころ
まず「93.9%増益」の中身を分解します
化学メーカーの決算を見るときに、私が必ず確認するのが営業利益の増減要因です。東ソーは決算説明資料でこれをきれいに開示してくれています。
見てのとおり、増益の8割が「在庫受払差」です。
この言葉、初めて聞く方も多いと思うので簡単に説明します。化学メーカーは原料(ナフサ=原油から作られる石油化学の基礎原料)を大量に在庫として持っています。原料価格が上がると、安く仕入れて倉庫に眠っていた在庫の価値が上がり、その分だけ利益がかさ上げされるという現象が起きます。これが在庫受払差です。
今回の1Qは、国産ナフサ価格が前年同期の66,300円/KLから118,500円/KLへと約1.8倍に急騰しました。中東情勢の緊迫化が主因です。この急騰が、東ソーの利益を121億円押し上げたわけです。
裏を返すと、ナフサ価格が下がれば、まったく同じメカニズムで利益が削られます。ここが今回の決算を読むうえで一番のポイントになります。
会社自身が「下期は逆回転する」と言っている
今回開示された通期予想の前提を見ると、会社のスタンスがよく分かります。
| 前提条件 | 1Q実績 | 上期前提 | 下期前提 |
|---|---|---|---|
| 国産ナフサ(円/KL) | 118,500 | 104,250 | 77,000 |
| 為替(円/USD) | 159.6 | 159.8 | 160.0 |
下期のナフサ前提は77,000円/KL。1Q実績から約35%も下がる想定です。つまり会社は、1Qで得た在庫受払差のプラスが下期にはマイナスに転じるという前提で計画を組んでいます。
それがはっきり表れているのが、基礎素材セグメント(エチレン・塩ビ・苛性ソーダなどのコモディティ)の通期予想です。
| 基礎素材の営業利益 | 金額 |
|---|---|
| 1Q実績 | +57億円 |
| 上期予想 | △31億円 |
| (逆算した2Q単独の想定) | △88億円 |
| 通期予想 | △27億円(営業赤字) |
1Qで57億円の黒字を出しているのに、上期トータルでは31億円の赤字を見込んでいます。逆算すると2Q単独で88億円の赤字を織り込んでいる計算になります。
全社ベースでも、上期営業利益予想500億円から1Q実績312億円を引くと、2Q単独の想定は188億円。前年の2Q単独(286億円)から34%の減益計画です。
1Qの数字だけを見て「絶好調」と判断するのは危ないという、分かりやすい構図です。
一方で、先端事業は着実に伸びています
今期から報告セグメントが4区分から5区分に変わりました。整理すると次のようになります。
| セグメント | 1Q売上高 | 前年同期比 | 1Q営業利益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| 基礎素材 | 1,248億円 | +11.7% | 57億円 | +90億円 |
| 付加価値素材 | 429億円 | +13.9% | 82億円 | +43億円 |
| バイオサイエンス | 154億円 | +0.2% | 57億円 | +11億円 |
| 高機能材料 | 343億円 | +13.8% | 32億円 | +7億円 |
| 水処理エンジニアリング | 420億円 | +11.1% | 66億円 | △6億円 |
| その他 | 148億円 | +18.6% | 19億円 | +6億円 |
注目したいのは高機能材料です。増益幅は7億円と地味ですが、中身を見ると数量差が+19億円。つまり実需がしっかり伸びています(固定費増で12億円が相殺されました)。
理由は半導体です。石英ガラスが「旺盛なAI需要を背景に」国内・東アジアで出荷増、スパッタリングターゲットも海外の半導体用途が伸びています。前期に減損損失196億円を計上したのがまさにこのスパッタリングターゲット事業でしたから、そこが回復してきたのは素直に良い材料です。
通期予想でも、この構図がはっきり出ています。
通期の営業利益増加+95億円に対して、先端事業だけで+122億円の増益予想。チェーン事業は逆に13億円の減益予想ですから、増益はまるごと先端事業が稼ぎ出す計画ということになります。とくに高機能材料が64億円→137億円と2倍以上になる見込みです。
前回の本決算分析でも「稼ぎ頭がシフトしている」と書きましたが、その流れは今期さらに加速する計画です。
気になった点
水処理エンジニアリングだけが減益
6つのセグメントのうち、唯一の減益が水処理エンジニアリング(△8.7%)でした。売上は台湾・米国の半導体関連大型案件で11.1%伸びているのに、利益は減っています。
理由は決算短信に明記されていて、「前年同期に売上計上した好採算のプラント案件の反動による利益率の低下」に加え、人件費とIT関連支出の増加です。
ここは前回の本決算で「東ソーの最大の稼ぎ頭」と評価したセグメントなので、少し気になります。通期では405億円(+24億円)の増益予想ですが、上期180億円・下期226億円と明らかに下期偏重の計画です。案件の進捗次第という要素が強く、2Q・3Qの積み上がり方を見ておきたいところです。
財務が3期連続で少しずつ緩んでいます
自己資本比率の推移を並べると、傾向が見えます。
| 時点 | 自己資本比率 |
|---|---|
| 2025年3月末 | 62.3% |
| 2026年3月末 | 59.0% |
| 2026年6月末 | 57.3% |
| 2027年3月末(会社予想) | 56.0% |
57.3%という水準そのものは十分に健全です。私のスクリーニング基準(40%以上)も余裕でクリアしています。ただ、方向としては明確に低下が続いていて、会社自身もさらに下がる前提を置いています。
有利子負債もこの3ヶ月で2,351億円→2,888億円と、537億円増えました。現預金1,914億円を差し引いたネットの借入は974億円です(前期末は555億円)。
背景は2つあります。ひとつは設備投資で、通期960億円と前期727億円から233億円の増額計画。もうひとつが運転資本の膨張です。原料であるナフサが高いので、棚卸資産が2,435億円→2,546億円へ、売上債権も143億円増えました。
1QのフリーCFはマイナス196億円
その運転資本の膨張が、キャッシュフローに直撃しています。
| 項目 | 前年1Q | 今期1Q |
|---|---|---|
| 営業CF | 365億円 | 4億円 |
| 投資CF | △257億円 | △200億円 |
| フリーCF | +108億円 | △196億円 |
税引前利益は178億円増えているのに、営業CFはほぼゼロまで落ち込みました。売上債権の増加131億円、棚卸資産の増加107億円、法人税等の支払増86億円が効いています。
1Qは季節的に運転資本が膨らみやすい時期でもあるので、これ単体で慌てる話ではありません。ただ、原料高が続く限り運転資金の負担は重くなります。前期は通期でFCF424億円を稼いでいたので、今期どこまで戻せるかは見ておきたい数字です。
増益の柱が半導体に集中している
これは前向きな話の裏側でもあるのですが、今期の増益を牽引する高機能材料(石英ガラス)と水処理エンジニアリング(半導体工場の水処理プラント)は、どちらも半導体投資が需要の源泉です。
成長領域であることは間違いない一方、増益の柱が同じ需要サイクルに紐づいているため、半導体投資が減速したときの影響は集中しやすい構造になっています。
長期配当目線での評価
さて、高配当株として見たときの評価です。ここは素直に良い内容でした。
配当性向が正常化します
| 年度 | EPS | 年間配当 | 配当性向 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 182.13円 | 100円 | 54.9% |
| 2026年3月期 | 132.40円 | 100円 | 75.5% |
| 2027年3月期(予想) | 191.63円 | 100円 | 52.2% |
前期の75.5%は、減損損失196億円で純利益が押し下げられた結果の一時的な数字でした。今期予想では52.2%まで戻る見込みです。
大事なのは余力です。予想EPS 191.63円に対して配当100円ですから、仮に業績が2割下振れしてEPSが153円になっても、配当性向は65%程度に収まります。今回の決算に「在庫受払差で下駄を履いている」という懸念があることを踏まえても、配当そのものが揺らぐ水準ではありません。
17年間、一度も減配していません
IR Bankで配当履歴をさかのぼると、次のようになります(2017年10月の株式併合を調整した後の数字です)。
| 年度 | 年間配当 | 年度 | 年間配当 |
|---|---|---|---|
| 2010年3月期 | 12円 | 2019年3月期 | 56円 |
| 2011年3月期 | 12円 | 2020年3月期 | 56円 |
| 2012年3月期 | 12円 | 2021年3月期 | 56円 |
| 2013年3月期 | 12円 | 2022年3月期 | 60円 |
| 2014年3月期 | 12円 | 2023年3月期 | 80円 |
| 2015年3月期 | 16円 | 2024年3月期 | 80円 |
| 2016年3月期 | 20円 | 2025年3月期 | 85円 |
| 2017年3月期 | 30円 | 2026年3月期 | 100円 |
| 2018年3月期 | 48円 | 2027年3月期(予) | 100円 |
据え置きの年は何度かありますが、減額された年は一度もありません。直近10年で16円→100円と6倍以上になっています。
還元方針が数字で明記されています
東ソーは2025〜2027年度の株主還元方針を、次のように明文化しています。
- 総還元性向50%を基本とする
- 年間1株100円(下限)配当を実施し、配当性向が50%未満なら自己株買いで総還元性向50%にする
- 追加還元として、3ヶ年で500億円の自己株式を取得する
「累進配当」という言葉こそ使っていませんが、下限を100円と数字で切っている点は、長期保有の目線ではかなり心強い材料です。
自己株買いは3ヶ年500億円のうち、2025年度に250億円を実施済み。残り250億円は「実施時期を検討中」となっており、1Q時点では大きな買い付けは行われていません。ここは今後の開示を待つ形になります。
なお前期の自己株買いの効果で、期中平均株式数は3.18億株→3.08億株と3.3%減っています。地味ですが、EPSを押し上げる効果として効いています。
株価指標(※2026年8月4日終値時点)
| 指標 | 計算式 | 値 |
|---|---|---|
| 株価 | - | 2,654.0円 |
| PER | 2,654 ÷ 191.63(会社予想EPS) | 13.85倍 |
| PBR | 2,654 ÷ 2,732.1(1Q末BPS) | 0.97倍 |
| 配当利回り | 100 ÷ 2,654 × 100 | 3.77% |
| 益回り | 191.63 ÷ 2,654 × 100 | 7.22% |
| 時価総額 | - | 約8,171億円 |
前回分析した5月13日時点(株価2,768.5円)と比べると、株価は4.1%下がり、通期予想の開示でPERは13.85倍まで低下、PBRは1.025倍から0.97倍と純資産割れの水準に入りました。配当利回りも3.61%→3.77%へ上昇しています。
ちなみに決算発表当日の8月4日は、前日比1.85%安(一時は5.8%安の2,548円)で、出来高は直近の3倍にあたる427万株。増益決算にもかかわらず売られたわけで、市場も「1Qの中身」を割り引いて見ている可能性があります。
筆者の保有状況と投資判断
東ソーは、私が実際に保有している銘柄の一つです。2023年後半に特定口座で購入し、2024年にNISA枠へ移すため一度売却して買い直しました。現在は70株の単元未満保有で、ポートフォリオ内ではセクター分散の一枠という位置づけです。購入の決め手は、下限100円を数字で明記した還元方針と、当時の配当利回りの水準でした。
今回の決算については、在庫受払差の件も含めて特段の驚きはありません。私が期待しているのは高機能材料が計画どおり伸びていくかどうかで、そこが数字として表れてくるまでは、配当さえ維持されていれば十分だと考えています。
結論はホールド、そのうえで単元化を狙う方針です。ただし現在の2,654円あたりが買い増しのギリギリの線です。3,000円まで上がると利回りは3.3%台まで下がりますが、この銘柄で3.5%を割ってまで買い増す理由は私にはありません。そうなれば単元化は諦め、配当が入金されたタイミングであらためて検討することになります。
五項目の採点表
| 評価軸 | 点数 | 前回 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| ① 収益力 | 14 | 13 | 1Q営業利益率11.4%・通期予想9.0%と水準は確保。ただし増益の8割が在庫受払差で、実需寄与は+24億円。予想ROEは約7%で依然物足りない |
| ② 割安性 | 16 | 14 | PER13.85倍・PBR0.97倍と純資産割れ水準。益回り7.22%、配当利回り3.77%。前回(PER20.9倍・PBR1.03倍)から明確に改善 |
| ③ 財務健全性 | 13 | 14 | 自己資本比率57.3%は基準クリアも3期連続低下。ネットの借入は555億円→974億円へ拡大、1QのフリーCFは△196億円 |
| ④ 株主還元 | 17 | 15 | 17年間減配ゼロ。下限100円・総還元性向50%を明文化。配当性向は75.5%→52.2%へ正常化見込み。自己株買い残250億円の時期未定がわずかな減点 |
| ⑤ 将来性・トレンド | 13 | 12 | 先端事業の通期営業利益761億円(+122億円)が全社増益を牽引。一方で基礎素材は通期△27億円の営業赤字予想と、構造問題は未解決 |
合計:73点 / 100点(前回68点 → +5点)
前回(68点)からの変化について
上がったのは割安性(14→16)と株主還元(15→17)です。割安性は、通期予想が開示されたことでPERが実力ベースで測れるようになり、株価も下がってPBR1倍を割ったことが理由です。株主還元は、配当性向が75.5%から52.2%へ正常化する見込みが立ったことが大きいです。
逆に下げたのは財務健全性(14→13)。自己資本比率の3期連続低下と、ネットの借入拡大、1QのフリーCFマイナスを反映しました。
収益力と将来性は1点ずつ上げましたが、大きく上げなかったのは、増益の中身が在庫受払差中心であること、基礎素材が通期で営業赤字予想であることを踏まえたためです。
総合判断
結論としては「保有継続」、新規・買い増しは2Q決算の確認後というのが、私の整理です。
理由を3つに絞ります。
1. 配当の確実性は、むしろ高まりました
17年間減配ゼロ、下限100円の明文化、配当性向52.2%への正常化。この3点がそろっており、業績が2割下振れしても配当性向は65%程度で収まります。配当だけを目的に持つのであれば、今回の決算は安心材料が増えた内容でした。
2. ただし「93.9%増益」を実力と読むのは早計です
繰り返しになりますが、増益151億円のうち121億円は在庫受払差です。会社自身が下期のナフサ前提を1Q比35%安に置き、基礎素材を通期営業赤字(△27億円)で計画している以上、1Qの好調をそのまま延長して考えることはできません。決算当日に株価が一時5.8%下げたのも、そこを見られたのだと思います。
3. 今期の実力を測る鍵は、2Qの2つの数字です
- 基礎素材の2Q単独の損益:会社は△88億円を想定しています。ここが想定より軽く済むのか、それとも計画どおり(あるいはそれ以上に)沈むのか
- 高機能材料の進捗:通期137億円計画に対して1Qは32億円。半導体向け石英ガラスの実需がどこまで積み上がるか
この2つが見えれば、今期の東ソーが「在庫効果で膨らんだだけ」なのか「構造転換が数字で証明された」のかがはっきりします。
バリュエーション面では、PBR0.97倍と純資産割れの水準にあり、下限100円配当が守られる限り利回りが下値を支えやすい構造ではあります。すでに保有している方は、慌てて動く必要のない決算だったと思います。
この記事の補足コメント
今回の記事で一番お伝えしたかったのは、「増益率の大きさ」よりも「増益の中身」を見る習慣です。
化学、鉄鋼、石油、商社といった市況産業では、原料価格の変動だけで利益が数百億円単位で動きます。在庫受払差はその代表格で、価格が上がる局面では利益が膨らみ、下がる局面では逆に削られます。実需が変わっていなくても、です。
ありがたいことに東ソーは、決算説明資料で「数量差」「価格差」「交易条件」「固定費差他」と要因を分解して開示してくれています。この表を見れば、増益が実需によるものか価格変動によるものかが一目で分かります。市況産業の決算を読むときは、まずこの分解表を探すのがおすすめです。
もうひとつ補足を。今回セグメント区分が4区分から5区分に変わりました(石油化学・クロル・アルカリ・機能商品・エンジニアリング → 基礎素材・付加価値素材・バイオサイエンス・高機能材料・水処理エンジニアリング)。前期までの記事と単純比較ができない部分があるので、過去記事と読み比べる際はご注意ください。会社側は前年同期を組替後の数字で開示してくれているので、本記事の前年同期比はすべて組替後ベースで統一しています。
なお、前回の本決算記事で掲載した配当履歴の表について、2015〜2018年3月期の年度と金額の対応に一部ずれがありました。今回の記事の表がIR Bankの分割調整後データに基づく正しい対応です。訂正してお詫びします(減配ゼロという事実に変わりはありません)。
【免責事項・投資のご判断について】
※ 本記事の株価および各種指標は、記事作成時に取得した特定の日の終値データを使用しています。
※ 本記事は企業が公表した決算短信をもとに、筆者(ネコのシッポ)が独自の視点で分析・執筆したものです。。正確な情報は必ず企業公式サイトの原文をご確認ください。
※ 本記事は特定の銘柄への投資を勧誘・推奨するものではありません。記事に記載された内容は、執筆時点での公開情報や個人的な見解に基づいています。
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