こんにちは、ネコのシッポです。
8月に入り、3月決算企業の第1四半期決算が続々と出てきましたね。今回は、5月の本決算分析でも取り上げたいすゞ自動車(7202)の2027年3月期 第1四半期決算を見ていきます。
前回の記事では「中東情勢という読めないリスクを抱えたまま、配当利回り4%超で待てるかどうか」という整理をしました。あれから約3か月。ホルムズ海峡は依然として通れないままですが、決算の中身は「販売台数は減ったのに営業利益は3割増」という、ちょっと意外な数字になっています。この増益、素直に喜んでいいものなのか。数字の中身を丁寧にほどいていきましょう。
三行要約
- 台数▲7%でも営業利益+30.7%:売上収益8,325億円(前年同期比+6.8%)、営業利益748億円。売上収益は第1四半期として過去最高を記録
- ただし増益+176億円のうち+190億円は為替。価格対応(+105億円)・原価低減(+45億円)の企業努力はあるものの、円安が剥落すれば増益幅も細る構図
- 通期予想も配当94円も据え置き。予想PER9.88倍・PBR1.05倍・配当利回り4.09%(※2026年8月3日終値2,300.5円時点)と、割安圏の水準は前回からほぼ変わらず
今期の見どころ
1. 「台数は減ったのに、利益は3割増えた」のカラクリ
まず全体像です。
| 項目 | 26/3期1Q | 27/3期1Q | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 7,799億円 | 8,325億円 | +6.8% |
| 営業利益 | 572億円 | 748億円 | +30.7% |
| 営業利益率 | 7.3% | 9.0% | +1.7pt |
| 親会社帰属四半期利益 | 414億円 | 509億円 | +23.0% |
| グローバル販売台数 | 14.2万台 | 13.2万台 | ▲7% |
売上収益は第1四半期として過去最高。営業利益以下も第1四半期としては2025年3月期に次ぐ過去2番目の水準です。
不思議なのは、販売台数は1万台も減っているのに利益は増えているという点。会社が公表した増減分析を図にしてみました。
いちばん長い棒が為替変動の+190億円。つまり、増益額+176億円のほぼ全部が円安によるものという計算になります。1Qの平均レートは1ドル159.4円(前年同期144.5円)、1バーツ4.90円(同4.37円)。タイバーツ高だけで+94億円、ドル高で+47億円が乗りました。
もちろん、価格対応(値上げ)+105億円と原価低減活動+45億円という企業努力が、資材費の増加▲95億円や研究開発費▲57億円を吸収している点は評価すべきです。ただ、「為替を除くと実力ベースではほぼ横ばい」というのが正直な読み方になります。
2. 中東情勢の打撃は「まだ本番前」
前回の記事で最大のリスクとして挙げたホルムズ海峡の封鎖。その影響について、会社は通期で▲400億円のマイナスを織り込んでいます。
では1Qの実績はというと——▲70億円でした。内訳は資材(ナフサ由来素材)▲5億円、物流費▲20億円、中近東向けの出荷遅延による販売減▲45億円。
「思ったより軽い」と感じるかもしれませんが、ここは要注意です。会社は決算説明で「資材費などの上昇は第2四半期以降に大きく効いてくる」「ほぼ想定通りの発生」と明言しています。つまり、通期▲400億円のうち残り▲330億円は2Q以降にやってくる、ということです。
現状も厳しさは続いています。
- ホルムズ海峡ルートは現在も利用できず、5月から代替ルートで出荷を再開
- 代替ルートの運賃は平時の5倍以上、しかも船便の手配自体が不足
- 生産・出荷は「船便を確保できた台数分だけ」という制約付き
- ナフサ価格は4月時点で紛争前の約1.8倍
1Qの好調ぶりを、そのまま4倍して通期を想像するのは危険だということですね。
3. 米国関税の影響が「見える化」された
今回の資料では、米国の関税率の推移が具体的に開示されました。
| 時期 | 輸入関税率 |
|---|---|
| 〜2025年3月期 | 4% |
| 2026年3月期 4〜7月 | 14% |
| 2026年3月期 8〜10月 | 15% |
| 2026年3月期 11月〜3月 | 29% |
| 2027年3月期 | 29%(継続) |
営業利益への影響は2026年3月期で▲130億円、2027年3月期は▲160億円(3万台販売前提)との試算です。1Q実績は▲17億円でした。
ここで面白いのは、この数字には「戻ってくるかもしれないお金」が含まれていない点です。2026年2月に米国最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税を違法・無効と判断したため、支払済みの関税が還付される可能性があります。また中大型トラック関税にはオフセット(相殺)制度の規定もあります。会社はいずれも見通しに織り込んでいないため、実現すれば上振れ要因になります。
4. UDトラックスとの「合併検討」に着手
地味ですが、中長期では大きな話が出ています。2021年にグループ化したUDトラックスとのシナジー効果は、2024年3月期140億円→2025年3月期190億円→2026年3月期230億円と着実に積み上がってきました。
そして今回の資料に、「両社合併に向けた検討に着手」という一文が入りました。すでに国内販売機能の統合、上尾工場への大型トラック生産集約、共通プラットフォームの導入(国内2028年・海外2029年)が進んでおり、統合が本格化すればコスト構造の改善余地はさらに広がります。
気になった点
営業キャッシュフローが453億円の赤字に
今回いちばん目を引いたのがここです。第1四半期の営業キャッシュフローは▲453億円(前年同期は+634億円の黒字)。投資キャッシュフロー▲642億円と合わせると、フリーキャッシュフローは▲1,094億円のマイナスでした。
理由は2つあります。
- サプライヤーへの支払期日短縮(約▲900億円)……取引先への支払いを早めた分、手元資金が出ていったもの。通期で約1,000億円の負担を計画しており、いわばサプライチェーン支援策です
- 在庫の一時的な増加(約▲350億円)……中東情勢と船便不足で、出荷できない完成車が積み上がったもの
どちらも「一時的な要因」で、会社は「支払期日短縮の影響は1Qでほぼ出尽くし、在庫も今後は減少する見込みで、2Q以降は通常レベルに回復する」と説明しています。
とはいえ、これを穴埋めするために有利子負債が1,509億円増えました(コマーシャル・ペーパー1,230億円の増加が中心)。結果として、これまで「現預金と借金がほぼ同額」というきれいなバランスを保っていた自動車事業が、約1,228億円のネット有利子負債(借金超過)に転じています。
| 自動車事業(億円) | 2026年3月末 | 2026年6月末 |
|---|---|---|
| 現預金 | 3,720 | 3,876 |
| 有利子負債(リース除く) | 3,755 | 5,104 |
| ネットD/Eレシオ | 0.00 | 0.08 |
数字そのものはまだ十分に健全な範囲ですし、自己資本比率はむしろ40.4%→40.7%と改善しています。ただ、「一時的」という説明が本当かどうかは、2Q決算で営業キャッシュフローが黒字に戻るかを見るまで判断保留というのが冷静な姿勢だと思います。
今期の自己株買いが「検討中」で止まっている
前期のいすゞは500億円の自己株買いを実施し、配当と合わせた総還元性向は84.4%という高水準でした。前回の記事でも高く評価したポイントです。
今期はどうかというと、資料には「自己株式取得は、中東情勢を見極め次第、内容をお示しすべく検討中」とあります。方針そのもの(適正な自己資本水準を意識しつつ機動的に実施)は変わっていませんが、実施するともしないとも言っていない状態です。
配当94円は据え置きで確定的ですが、「上乗せ部分」は今のところ白紙。前期並みの還元を前提にするのは早計でしょう。
国内トラックのシェアが落ちている
こちらも気になりました。国内トラックの需要(全需)はほぼ前年並みだったのに、いすゞのシェアは主力クラスで低下しています。
| クラス | 26/3期1Q | 27/3期1Q |
|---|---|---|
| 大型トラック | 33.4% | 27.1% |
| 中型トラック | 56.2% | 48.6% |
| 小型(2-3トン) | 46.0% | 44.0% |
| 小型(1-1.5トン) | 17.9% | 19.5% |
会社の説明は「モデル切替の実施」と「架装(荷台などの架装工程)のリードタイム長期化」。つまり作れなかった・納められなかったという一時的な話です。1-1.5トンクラスは普通免許で乗れる「エルフミオ」の効果でシェアが上がっています。
とはいえ大型で6.3pt、中型で7.6ptの低下は小さくありません。ここが一時要因なのか構造的な変化なのかは、2Q以降で必ず確認したいところです。
長期配当目線での評価
配当94円は据え置き、利回りは4.09%
今回の決算での配当関連の情報を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 2027年3月期 年間配当予想 | 94円(中間47円・期末47円)=5月公表から修正なし |
| 予想配当性向 | 94円 ÷ 予想EPS232.82円 = 40.4% |
| 配当総額 | 約650億円の見込み |
| 配当方針 | 配当性向40%以上。94円は「下限」の位置づけ |
| 予想配当利回り | 4.09%(※2026年8月3日終値2,300.5円時点) |
配当性向40.4%は、無理をしていない水準です。仮に通期の利益が2割下振れしても(EPS186円程度)、94円を維持したときの配当性向は50.5%。減配しなければならない水準まではまだ距離があります。
配当の推移と「減配歴」
| 年度 | 配当(円) | 配当性向 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 2020/3期 | 38円 | 34.5% | ↑ 増配 |
| 2021/3期 | 30円 | 51.8% | ↓ 減配(コロナ禍) |
| 2022/3期 | 66円 | 40.5% | ↑ 大幅増配 |
| 2023/3期 | 79円 | 40.4% | ↑ 増配 |
| 2024/3期 | 92円 | 41.8% | ↑ 増配 |
| 2025/3期 | 92円 | 48.2% | → 据置 |
| 2026/3期 | 92円 | 47.6% | → 据置 |
| 2027/3期(予想) | 94円 | 40.4% | ↑ 増配予定(据え置き発表) |
いすゞは「累進配当」(減らさないことを約束する配当方針)を掲げている企業ではありません。実際、コロナ禍の2021年3月期には38円→30円の減配を経験しています。そこは長期保有を考えるうえで前提として押さえておきたい事実です。
一方で、そこからの回復力は目を見張るものがあります。66円→79円→92円と積み上げ、業績が落ちた直近2期も92円を守り抜きました。「配当性向40%以上」という方針を軸に、下がった利益に合わせて機械的に配当を削るのではなく、水準を維持する運営をしてきた実績があります。
キャッシュとの兼ね合い
今回の営業キャッシュフロー赤字を見て「配当は大丈夫なのか」と心配になる方もいるかもしれません。整理しておくと——
- 配当総額は約650億円の見込み
- 前期(2026年3月期)の営業キャッシュフローは2,474億円、フリーキャッシュフローは774億円
- 1Qの赤字は運転資金の一時的な要因によるもので、通年での稼ぐ力そのものは変わっていない
したがって、2Q以降に営業キャッシュフローが正常化するのであれば、94円の配当は十分に賄えると考えられます。逆に言えば、そこが崩れたときは配当より先に自己株買いが見送られる、という順番になるでしょう。
筆者の保有状況と投資判断
いすゞは、私が実際に保有している銘柄の一つです。新NISAの2年目に、それまで保有していたトヨタ自動車(7203)の利回りに物足りなさを感じ、売却して乗り換える形で購入しました。利回りの高さに加え、主戦場が米国ではないこと、トラック販売の実績が堅調だったことを評価しての判断です。なおトヨタはその後の株価下落で利回りが改善したため買い直し、現在も保有しています。
今回の1Qは、パッと見は良さそうに見えたものの、中身はそこまで喜べる内容ではなかった、というのが率直な感想です。少し残念ではありますが、増益の主因が為替であることを踏まえれば「こんなものかな」とも思います。
現在は単元未満株での少額保有にとどめており、ポートフォリオの中では分散枠の一つという位置づけです。方針はホールド。単元までの買い増しも選択肢には入れていますが、優先度は低めで、買うとしても今の2,300円前後までと考えています。これより高い水準になれば、他の候補銘柄を優先することになりそうです。
五項目の採点表
| 評価軸 | 点数(20点満点) | 前回(26/3期本決算) | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 収益力 | 15 | 14(+1) | 営業利益+30.7%・利益率9.0%と改善。ただし増益の主因は為替で、台数は▲7% |
| 割安性 | 17 | 17(±0) | PER9.88倍・PBR1.05倍・利回り4.09%。前回からほぼ変わらない割安圏 |
| 財務健全性 | 12 | 13(▲1) | 自己資本比率40.7%は改善も、営業CF▲453億円・有利子負債+1,509億円が引っかかる |
| 株主還元 | 13 | 14(▲1) | 配当94円は安定。ただし今期の自己株買いは「検討中」で未確定 |
| 将来性・トレンド | 14 | 13(+1) | アフターセールス好調・UDとの合併検討着手・北米新工場2027年稼働は前向き |
| 合計 | 71 / 100 | 71(±0) | 合計は同じでも中身が入れ替わりました |
前回からの変化について:合計点は71点で前回と同じですが、内訳が入れ替わりました。収益力(+1)と将来性(+1)が上がった一方、財務健全性(▲1)と株主還元(▲1)が下がっています。「業績は想定より良いスタート。でも、キャッシュと還元の上乗せ部分には宿題が残った」——それが今回の1Qでした。
総合判断
保有継続(新規は2Q決算の確認後でも遅くない)
現在の株価2,300.5円(※2026年8月3日終値時点)で、予想PER9.88倍・PBR1.05倍・配当利回り4.09%。前回分析時(5月13日終値2,288.5円)とほとんど変わっていません。
つまり、「1Qが好決算だったこと」は今のところ株価にほとんど織り込まれていないわけです。市場も「増益の中身は円安であって、中東の痛みはこれから」と冷静に見ているのだと思います。
判断材料を整理すると——
- すでに保有している方:配当94円(利回り4.09%)は据え置きが確認され、配当性向40.4%にも余裕があります。慌てて動く理由は見当たりません。配当を受け取りながら2Qを待つのが自然でしょう
- 新規で検討したい方:2Q決算(11月ごろ)は、①中東影響が本格化したときの実際のダメージ、②営業キャッシュフローが正常化するか、という2つの重要な検証ポイントを同時に迎えます。会社自身が「2Q決算発表の際に最新の見通しをお示しする」と述べており、通期予想が動く可能性があります。この確認を待ってから、というのは十分に合理的な判断です
- 利回り4%超という水準は、待っている間のコストを下げてくれます。「不確実性を承知のうえで、配当をもらいながら待てる」と思える方には引き続き候補になりえます
数字は割安、配当も安定。ただし2Qが山場——というのが今回の結論です。
この記事の補足コメント
- 第1四半期の営業利益進捗率は28.8%(748億円÷2,600億円)と順調に見えますが、会社が「中東情勢によるコスト増は2Q以降に本格化」と明言している以上、単純な4倍換算は禁物です
- 為替の通期前提はUSD155円・AUD110円・EUR185円・THB4.95円。1Q実績(USD159.4円など)はこれより円安なので、このまま円安が続けば為替面では上振れ余地、円高に振れれば剥落リスクとなります
- 米国関税の還付・オフセットは会社の見通しに織り込まれていません。実現すれば「予想外のプラス」として効いてくる可能性があります
- 中国事業について、いすゞ(中国)発動機有限公司が2026年4月30日付で連結子会社から持分法適用会社に変わりました。今後の売上には中国分の一部が含まれなくなる点にご留意ください
- アフターセールス(部品・整備などのストック収益)は通期6,450億円の見通しで、車両販売の増減に左右されにくい安定収益として着実に育っています。保有台数は431万台(国内157万台・海外274万台)です
【免責事項・投資のご判断について】
※ 本記事の株価および各種指標は、記事作成時に取得した特定の日の終値データを使用しています。
※ 本記事は企業が公表した決算短信をもとに、筆者(ネコのシッポ)が独自の視点で分析・執筆したものです。。正確な情報は必ず企業公式サイトの原文をご確認ください。
※ 本記事は特定の銘柄への投資を勧誘・推奨するものではありません。記事に記載された内容は、執筆時点での公開情報や個人的な見解に基づいています。
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