こんにちは、ネコのシッポです。
7月末は決算ラッシュで、毎日資料と睨めっこの日々が続いています。今回取り上げる住友商事は、2026年7月1日付で1株→4株の株式分割を実施したばかり。分割後としては初めての決算発表となりました。
株価はこれまで6,000円台後半でしたが、分割後は1,670円(※2026年7月31日終値時点)。100株買うのに約17万円と、ぐっと手が届きやすい水準になりました。新NISAで高配当株を積み上げている方には、選択肢に入れやすくなった銘柄かもしれません。
ただ、今回の決算は「数字の見た目」と「実態」が少しズレている決算でした。税引前利益は27.6%の減益なのに、最終的な純利益は11.2%の増益。この不思議なねじれの正体を含めて、順番に確認していきましょう。
三行要約
- 第1四半期の純利益は1,901億円(前年同期比+11.2%)。通期予想6,300億円に対する進捗率は30.2%と順調な滑り出しです。
- 為替や資源価格の追い風を除いた実力ベースの利益(基礎的収益)は1,370億円→1,770億円(+400億円、+29.2%)と大きく伸び、利益の「質」はむしろ改善しました。
- 配当は年間40円(分割前160円)予想を据え置き。累進配当方針は継続中ですが、配当利回りは約2.40%(※2026年7月31日終値時点)と3%には届いていません。
今期の見どころ
税引前は減益、なのに純利益は増益。このねじれの正体
まず、決算短信を見て「あれ?」と思う数字から片付けておきます。
| 項目 | 前年同期 | 今回1Q | 増減 |
|---|---|---|---|
| 税引前四半期利益 | 2,103億円 | 1,523億円 | △27.6% |
| 親会社帰属四半期利益 | 1,709億円 | 1,901億円 | +11.2% |
税金を払う前の段階では3割近い減益なのに、税金を引いた後は1割の増益になっています。普通は逆転しません。
からくりはマダガスカルのニッケル事業(アンバトビー)の売却にあります。この案件で約730億円の売却損失が出たのですが、それに対応する約720億円の税効果(税金の戻り)が、税金の行でプラスとして計上されました。つまり、
- 税引前の段階:△730億円のマイナスだけが乗る
- 税金の段階:+720億円のプラスが戻ってくる
- 最終的な純利益への影響:約△30億円だけ
という構図です。決算短信の「法人所得税」の欄が△258億円から+450億円のプラスになっているのはこのためで、業績が悪化したわけではありません。数字の見た目に惑わされないようにしたいところです。
実力ベースの利益が+400億円。ここが今回いちばんの好材料
住友商事は「基礎的収益」という指標を開示しています。これは資産の売却益や一時的な特殊損益を取り除いた、本業の稼ぐ力を示す数字です。
グラフを見ていただくと分かりやすいのですが、前年同期は1,709億円のうち340億円が特殊要因(米国タイヤ販売会社マイダス社の売却益など)でした。今回はその特殊要因が130億円に減っています。
にもかかわらず全体で増益になったのは、青い部分=実力ベースの利益が400億円も増えたからです。「特別な売却益で数字を作った決算」ではなく、「本業が伸びた決算」だったわけです。個人的にはここがいちばん評価できるポイントだと思っています。
さらに会社は、この+400億円のうち為替(+80億円)や資源価格(+130億円)といった外部環境の追い風を除いた実力の伸びは+170億円と説明しています。追い風を差し引いても、きちんとプラスです。
資源とエネルギーが牽引。銅・アルミ・貴金属が好調
セグメント別に見ると、伸びたのは以下の分野でした。
| セグメント | 前年同期 | 今回1Q | 増減 |
|---|---|---|---|
| 資源 | 106億円 | 254億円 | +148億円 |
| エネルギートランスフォーメーション | 240億円 | 326億円 | +86億円 |
| 化学品・エレクトロニクス・農業 | 72億円 | 121億円 | +49億円 |
| コミュニケーションサービス | 34億円 | 64億円 | +30億円 |
| デジタル・AI | 50億円 | 74億円 | +24億円 |
| 自動車 | 397億円 | 117億円 | △280億円 |
| 都市総合開発 | 362億円 | 279億円 | △83億円 |
| 輸送機・建機 | 209億円 | 162億円 | △47億円 |
資源セグメントは銅価格の上昇とアルミのマージン拡大、それに貴金属取引の好調が重なりました。銅の価格は1Q実績で12,852ドル/トンと、会社が通期の前提に置く12,456ドル/トンを上回って推移しています。
自動車が△280億円と大きく落ち込んで見えますが、これは前年同期に米国タイヤ販売事業(マイダス社)の売却益約280億円があった反動です。実力ベース(基礎的収益)では約90億円→約100億円と、むしろ微増しています。
株式分割で投資単位が約17万円に
冒頭でも触れましたが、2026年7月1日に1株→4株の分割が実施されました。株価1,670円(※2026年7月31日終値時点)なので、100株の購入に必要な資金は約17万円です。
ここで大事なのは、株式分割で企業価値が増えるわけではないという点です。ケーキを4等分しても総量は変わりません。配当も年間160円が40円になっただけで、4株持っていれば受け取る金額は同じです。
とはいえ、投資単位が下がることで少額から買いやすくなり、毎月コツコツ積み立てる戦略も取りやすくなります。実利より心理的なハードルの話ですが、これは素直にプラス材料と考えてよいと思います。
気になった点
増益の中身、実は「消去又は全社」が支えている
先ほど「実力ベースの利益が伸びた」と書きましたが、公平を期すために逆側の話もしておきます。
セグメント別の数字をもう一度見ると、営業グループ10部門の合計は1,662億円→1,620億円と、実は△41億円の微減なのです。それでも全体が+192億円の増益になっているのは、どのセグメントにも属さない「消去又は全社」が47億円→280億円へと+233億円も伸びたためです。
この233億円の中身は、中間持株会社の再編に伴う為替実現益(約+160億円)と税効果で、要するに組織再編に伴う一過性のものです。会社自身も「第2四半期以降は税コストの増加を見込む」としており、このボーナスは続きません。
つまり今回の1Qは、
- 実力ベース(基礎的収益)は確かに強い
- ただし会計上の増益幅は一過性要因で膨らんでいる
という二重構造になっています。2Q以降も同じペースで増益が続く、と単純に考えるのは早計でしょう。
借入が5,662億円増加。ネットD/Eレシオは0.78へ
財務面では気をつけたい変化がありました。
| 項目 | 前期末 | 今回1Q末 |
|---|---|---|
| ネット有利子負債 | 3兆1,472億円 | 3兆7,135億円 |
| ネットD/Eレシオ | 0.68倍 | 0.78倍 |
| 現金及び現金同等物 | 1兆54億円 | 6,977億円 |
主因は米国の航空機リース会社Sumisho Air Leaseの買収(約3,300億円)です。前期のSCSK完全子会社化に続いて、大型投資が続いている状態と言えます。
ネットD/Eレシオ(借金が自己資本の何倍かを示す指標)は0.78倍まで上昇しました。総合商社としては許容範囲内ではあるものの、1年前の0.57倍からじわじわ上がっています。会社は「利益の積み上げと資産入替の加速により当年度末には0.6倍程度に改善する見込み」としていますが、これは不動産や政策保有株の売却が計画通り進むことが前提です。
自己資本比率は前期末33.9%から35.2%へ改善しましたが、私が目安にしている40%にはまだ届いていません。
フリーキャッシュフローが△3,684億円のマイナス
1Qのフリーキャッシュフローはマイナスでした。
- 営業CF:+547億円(前年同期+1,201億円)
- 投資CF:△4,231億円(前年同期△124億円)
- フリーCF:△3,684億円
投資CFの大きな流出は、繰り返しになりますがAir Lease買収と国内外の不動産取得によるものです。本業でお金が回らなくなったわけではなく、会社が定義する「キャッシュ・フロー収益力」は1Qで2,030億円を計上しています。
とはいえ、その状態で配当954億円+自己株取得573億円=1,527億円の株主還元を実施しているのも事実です。稼いだ以上に投資と還元をしている局面なので、借入が増えるのは当然の帰結。ここは資産入替の進捗を四半期ごとに確認していきたいところです。
「2Qに通期見通しを見直す」と明言
今回、会社は通期予想6,300億円を据え置きました。ただし説明会資料には気になる一文があります。
今後の中東情勢を含めた事業環境変化の影響を精査したうえで、第2四半期に通期見通しの見直しを行う
見直しは上方にも下方にも振れる可能性があります。実際、自動車は「中東情勢の影響本格化により減益を見込む」、化学品も「収益減速を見込む」と慎重な見立てをしている一方、為替は1Q実績159.57円/ドルに対して通期前提が150.00円/ドルと保守的で、こちらは上振れ要因になり得ます。
いずれにせよ、次の2Q決算が実質的な判断ポイントになりそうです。
配当利回り2.40%は「高配当株」とは言いにくい
(※2026年7月31日終値1,670円時点)
年間配当40円(分割前160円)に対して、配当利回りは2.40%。累進配当方針を掲げる優良な配当株ではあるのですが、「高配当株」として新規に買うには物足りない水準です。
40円の配当で利回り3%を確保するには、株価1,333円以下が必要な計算になります。現在の株価からは20%ほど下の水準です。
長期配当目線での評価
配当は6期連続の増配。減配は過去10年超で1回だけ
赤い棒が2021年3月期で、80円→70円と過去10年超で唯一の減配です。コロナ禍と資源価格の急落という、当時としては例外的な環境下でのことでした。
その後は毎年増配が続き、2026年3月期は150円(当初予想140円から上乗せ)。2027年3月期は160円(分割後40円)を予想しています。6期連続の増配という実績は、配当を目的に長期保有する立場からすると心強い数字です。
なお、配当履歴を調べる際によく使われるIR BANKの表は期初予想ベースの数値が含まれており、実績と一致しない年があります(2020年3月期・2026年3月期など)。本記事では決算短信の実績値を優先しました。
配当性向30.2%。まだ余裕がある水準
予想EPS 132.54円に対して年間配当40円なので、配当性向は30.2%です。
配当性向とは、稼いだ利益のうち何%を配当に回しているかを示す指標です。私は50%を一つの目安にしていますが、30%台前半ならまだ十分に余裕があります。仮に利益が2割減っても、配当を維持する余力は残る計算です。
「配当性向を無理に引き上げて利回りを演出している」タイプではなく、利益成長に沿って配当を増やしているのが住友商事のスタイルです。
累進配当+総還元性向40%以上を明記。1Qで1,527億円を還元済み
住友商事は中期経営計画2026で、
- 累進配当(前期実績に対して配当を維持または増配する)
- 総還元性向40%以上
を明記しています。累進配当を掲げるということは、原則として減配しないと宣言しているのと同じで、配当収入を計算に入れる長期投資家にとっては大きな安心材料です。
実行力も伴っており、今回の1Qだけで配当954億円+自己株式取得573億円=1,527億円を株主に還元しました。中期経営計画の3年間で7,000億円という還元計画に対し、すでに6,006億円と前倒しで進んでいます。
一方で、ネットD/Eレシオが上昇している局面で還元を積極的に続けている点は、裏を返せば「資産入替が計画通り進まなければ還元原資に制約がかかり得る」ということでもあります。とはいえ累進配当を掲げている以上、減配のハードルは相当に高いと考えてよいでしょう。
バリュエーションは前回よりわずかに低下
| 指標 | 計算式 | 値 |
|---|---|---|
| 予想PER | 1,670円 ÷ 132.54円 | 12.60倍 |
| PBR | 1,670円 ÷ 999.25円 | 1.67倍 |
| 配当利回り | 40円 ÷ 1,670円 | 2.40% |
| 益回り | 132.54円 ÷ 1,670円 | 7.94% |
| 時価総額 | 1,670円 × 47.4億株 | 約7.9兆円 |
(※2026年7月31日終値時点)
前回の決算分析時(2026年5月1日、分割前6,840円=分割後1,710円相当)と比べると、予想PERは12.95倍→12.60倍、PBRは1.76倍→1.67倍。株価が約2.3%下がった一方で利益と純資産が積み上がったため、指標としてはわずかに割安方向へ動いています。
五項目の採点表
| 評価軸 | 点数 | 前回(26年3月期) | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 収益力 | 17/20 | 17/20 → 変化なし | 基礎的収益+400億円(+29.2%)と実力ベースで成長。進捗率30.2%は順調。ただし会計上の増益は一過性要因に支えられている面あり |
| 割安性 | 12/20 | 11/20 → +1 | 予想PER12.60倍・PBR1.67倍と前回より低下。株式分割で投資単位が約17万円に。配当利回り2.40%は3%未達 |
| 財務健全性 | 11/20 | 11/20 → 変化なし | 自己資本比率は33.9%→35.2%へ改善も40%未達。ネットD/E0.78へ上昇、1QフリーCFは△3,684億円 |
| 株主還元 | 17/20 | 17/20 → 変化なし | 累進配当・総還元性向40%以上を維持。1Qで1,527億円還元。配当性向30.2%で余力十分 |
| 将来性・トレンド | 15/20 | 15/20 → 変化なし | 成長8分野とAir Lease・SCSKの利益貢献が本格化。中東情勢の不透明感と2Qの見通し見直し表明が織り込みづらい |
合計:72点/100点(前回71点から+1点)
前回(2026年3月期本決算)の71点から1点上昇しました。動いたのは割安性の1点だけで、株価がやや下がり利益が積み上がったことで指標が改善した分です。
収益力・株主還元が17点と高く、財務健全性(11点)が足を引っ張るという構図は前回から変わっていません。総合商社は事業構造上どうしてもレバレッジを効かせるため、自己資本比率40%という基準では点が伸びにくい業種ではあります。
総合判断
すでに保有している方は、ホールドで問題のない決算だったと思います。
実力ベースの利益が+29.2%伸び、通期進捗率も30.2%と順調。累進配当方針のもと配当予想は据え置かれ、1Qだけで1,527億円を還元しています。配当を目的に長期保有する前提であれば、今回の決算で慌てて動く理由は見当たりません。
新規の買い増しについては、私は2Q決算を待ちたいと考えています。 理由は3つあります。
- 会社自身が「2Qに通期見通しの見直しを行う」と明言しており、方向感が定まっていない
- 増益の会計上の主因が「消去又は全社」の一過性要因で、営業10部門の合計は微減だった
- 配当利回り2.40%は、高配当株として新規に仕込むには物足りない
もっとも、これは「悪い決算だから避ける」という話ではありません。むしろ中身は良い決算でした。ただ、次の四半期に見通しの修正が予告されている以上、それを確認してから判断しても遅くはない、というだけのことです。
株式分割で投資単位が約17万円まで下がったので、「まずは100株だけ買って様子を見る」「毎月少しずつ積み立てる」といった入り方もしやすくなりました。一度に大きく張るのではなく、時間を分散させる形なら今から始めても悪くない水準だと個人的には思っています。
この記事の補足コメント
今回の決算でいちばん面白かったのは、「税引前は減益なのに純利益は増益」というねじれでした。
決算のニュース記事は見出しに「減益」とだけ書かれることがあります。今回のケースでそれを鵜呑みにすると、実力ベースでは3割近く伸びている会社を「業績が悪化した」と誤解してしまいます。逆に、増益幅の+192億円だけを見て喜んでも、その大半が組織再編の一過性要因だという事実を見落とします。
見出しの数字だけでなく、その一段下にある「なぜその数字になったのか」を確認する。手間はかかりますが、これをやるかやらないかで見える景色はかなり変わります。住友商事は決算説明会資料で基礎的収益と特殊損益をきれいに分けて開示してくれているので、こうした確認がしやすい会社です。開示姿勢という意味でも好感の持てる企業だと思います。
次の注目は2Q決算での通期見通し見直しです。中東情勢がどう織り込まれるのか、しっかり確認していきます。
【免責事項・投資のご判断について】
※ 本記事の株価および各種指標は、記事作成時に取得した特定の日の終値データを使用しています。
※ 本記事は企業が公表した決算短信をもとに、筆者(ネコのシッポ)が独自の視点で分析・執筆したものです。。正確な情報は必ず企業公式サイトの原文をご確認ください。
※ 本記事は特定の銘柄への投資を勧誘・推奨するものではありません。記事に記載された内容は、執筆時点での公開情報や個人的な見解に基づいています。
※ 投資にかかわる最終的なご判断は、必ずご自身の責任において行われますようお願い申し上げます。本記事を利用したことによるいかなる損害についても、当ブログは一切の責任を負いかねます。


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